- 2023.07.30
- 中毒
24:プロピレングリコール【犬】【猫】【中毒】
概要
比較的安全な物質として不凍液のほか保冷剤,化粧品や医薬品など幅広い用途で用いられています。名前が似ていますがエチレングリコール より安全性が高い物質です。プロピレングリコールは比較的安全性が高いものの、大量に摂取すると犬に中毒を起こします。猫では赤血球に異常を起こすことから猫用ペットフードへの利用は禁じられています。
臨床徴候(症状)
大量に摂取し中毒を起こした場合は徐脈、運動失調、肝機能低下、ataxia、発作、意識障害、電解質異常(代謝性アシドーシス),高浸透圧血症そして腎障害を起こします。
原因物質
プロピレングリコール
中毒量
人間ではプロピレングリコールは1日に体重1kgあたり25mgが最大の摂取量とされていますが,犬では人よりも影響が大きいことが調べられています。 犬の半数致死量(LD50)すなわち致死量は1kgあたり22gとされています。(名前が似ているエチレングリコール は6.6ml/kgで量がかなり異なります。) 明確な中毒を起こす量に関して専門家間でコンセンサスが得られた中毒量はまだ決定していません。実験では影響が認められないNOEL(No Observed Effect Level無影響量)は犬では体重1kgあたり1日に約6mgとされています。
中毒を起こしやすい犬種・動物種
猫においては犬よりも少ない量で,貧血の臨床症状はなくとも赤血球に異常(ハインツ小体の形成)を起こし赤血球の寿命が短くなったという報告がなされています。おり,ペットフード安全法においても猫用のペットフードに用いることは禁じられています。
催吐の必要性
不明です。
治療
プロピレングリコール中毒では血圧や血糖値の管理のほか支持療法で改善することもあるのですが,より毒性の高いエチレングリコール の中毒キットではプロプレングリコールとエチレングリコール を区別できないことがあり,その場合はエチレングリコール の治療(血液透析など)を実施することもあります。
注意すべきこと
名前は似ていますがエチレングリコール と比べると毒性が低い物質であり,プロピレングリコールは希釈した液体の状態で一部の皮膚疾患の治療に使われることがあります。 実験では与えられる量などが日常生活とは異なっていたり,記録されているパラメータも中毒量とは異なるのでそのまま実生活にあてはめるのは難しいです。 プロピレングリコール中毒の原因としては,これを含む薬剤の(静脈)投与でみられます(医原性中毒)。プロピレングリコールを含む薬剤にはジアゼパム,フェノバルビタール,ペンとバルビタール,エトミデートetomidate,ロラゼパムlorazepamなど。1例ではありますが,建築現場をうろうろした後に中毒を起こしたオーストラリアンカトルドッグの中毒例(回復)が報告されています。この時は摂取した現場は飼い主もみていなかったものの,建築現場に不凍液があったことが確認されています。 ドッグランなど許可された場所以外でのノーリードやでのお散歩や放し飼いは絶対にやめましょう。
専門家向け
安定剤としてPGが入っているなら使う時毒性は大丈夫なのか?について 例: 1ml中ジアゼパム5mg PG400mg,発作を抑える用途での犬のジアゼパムを静脈注射で 0.5mg/kgほどもちいるケースを想定してみましょう。 3kgの犬です。 1ml/5mg=0.2 0.5mgジアゼパムいる量× 3犬のBW=1.5 mgいる 0.2 × 1.5=0.3ml投与する。 では0.3ml中にどのくらいPGは入っているでしょうか? PGは400mg/1ml 400*0.3 =120mgのPGが0.3ml中に含まれる。 3kgの犬に0.5mg/kgでジアゼパムを使う時は1ショット0.3ml中に120mgのPGが入っています。致死量である66g(22g/BW)より大幅に少ないことがわかります。 一応こうした注射薬の連用による医原性中毒を起こす可能性があると論文には記載されていました。しかし発作を止めるのは優先順位が高く、医原性のPG中毒の報告は犬猫では少ないことなどリスクベネフィットを鑑みて使用することが大切ですね
参考
- ジアゼパム添付文書 https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00059953.pdf
- WERLEY, Michael S., et al. Non-clinical safety and pharmacokinetic evaluations of propylene glycol aerosol in Sprague-Dawley rats and Beagle dogs. Toxicology, 2011, 287.1-3: 76-90.
- Blackwell's Five-Minute Veterinary Consult Clinical Companion: Small Animal Toxicology, Second Edition puts all the information needed to rapidly and accurately manage poisonings in small animal patients at the clinician's fingertips.
- FOWLES, Jeff R.; BANTON, Marcy I.; POTTENGER, Lynn H. A toxicological review of the propylene glycols. Critical reviews in toxicology, 2013, 43.4: 363-390.
- TILLEY, Larry P.; SMITH JR, Francis WK (ed.). Blackwell's five-minute Veterinary consult: canine and feline. John Wiley & Sons, 2015.
- プロピレングリコール 注射用添付文書 https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00059953.pdf 2023/03/17参照
- 環境省ペットフード安全基準規格 https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/petfood/standard.html 2023/03/17参照