• 2023.08.14
  • 中毒

28:カーバメート系殺虫剤【犬】【猫】【その他】【中毒】

カルバメート系殺虫剤の中毒では副交感神経の過剰興奮が生じ流涎、下痢、筋肉のふるえ、虚脱、徐脈、昏睡などが生じます

概要

日本の市販の殺虫剤でよく使われるカルベメート系殺虫剤はプロポクスルです。他のカルバメート系殺虫剤と違い、プロポクスルによるペットの中毒報告は少ないです。2022年に報告されたプロポクスル中毒の1例では、ほかのカルバメート系殺虫剤と同様の症状を示しています。

臨床徴候(症状)

アセチルコリンエステラーゼ阻害によりアセチルコリンが蓄積することで生じます。副交感神経の過剰興奮が生じ流涎、下痢、筋肉のふるえ、虚脱、徐脈、昏睡などが生じます。

原因物質

カルバメート系殺虫剤(プロポクスル propoxur)

中毒量

中毒量は不明。体重増加抑制と血液学的異常(溶血性貧血)など慢性的な有害事象が発現しないプロポクスルのNOEL(無影響量)は犬において7 mg/kg/dayです。 6頭の雄犬と6頭の雌犬を用いた1年間の長期経口投与を行った実験においては50週目に高用量(98.2mg/kg/day)の投与群から死亡例がでています。

中毒を起こしやすい犬種・動物種

知られていません。すべての動物で注意を要します。

催吐の必要性

摂取して早期の催吐は有効です。しかし、カルバメート系殺虫剤は神経障害を主徴とするため、痙攣・意識消失していたり、嘔吐をすでにしている個体では誤嚥する可能性があるため催吐はしません。

治療

カルバメート系殺虫剤による中毒の治療にはアセチルコリンの蓄積によるムスカリン受容体の過剰興奮を抑制することです。すなわち、アトロピンなどのムスカリン受容体をブロックする抗コリン薬が有効です。活性炭の投与も有効です。

注意すべきこと

カルバメート系殺虫剤は家庭用だけでなく動物用医薬品も存在します(家畜・家禽用)。家庭用殺虫剤では濃度は低いですが、動物用医薬品の製品では犬の死亡例も報告されています。この死亡例では適応外使用されたプロポクスルを摂取し1時間以内に意識喪失、振せんを呈して弊死に至っています。飼い主様が手に取る機会が多い市販の製品においても、ペットが接触しないように注意します。

参考

  • ARNOT, L. F., et al. Treatment rationale for dogs poisoned with aldicarb (carbamate pesticide): clinical review. Journal of the South African Veterinary Association, 2011, 82.4: 232-238.
  • MENCHETTI, Marika, et al. A suspected intermediate syndrome and intussusception following propoxur toxicity in a dog. Veterinary Record Case Reports, 2022, 10.2: e285.
  • PROPOXUR , RISK CHARACTERIZATION DOCUMENT Medical Toxicology and Worker Health and Safety Branches Department of Pesticide Regulation California Environmental Protection Agency January 2, 1997 https://www.cdpr.ca.gov/docs/risk/rcd/propoxur.pdf 2023/05/08参照
  • ボルホ50% 動物用医薬品データベース https://www.vm.nval.go.jp/public/detail/2991, 2023/05/10参照