• 2023.08.31
  • 中毒

31:メントール【犬】【猫】【その他】【中毒】

メントールは基本的には安全性が高い物質です。人では精油工場での中毒があり、猫では代謝に必要なグルクロン酸抱合能がないので犬や人では問題ない量でも中毒を起こす可能性はあります。

概要

メントールは夏場に重宝する冷感スプレーや拭き拭きシートに含まれています。メントールを感じるTPRM8とTRPA1 受容体は犬にも発現しており、基本的には安全性が高いですが、人ではメントールの精製工場での中毒事故が発生しています。ミントの工場などには立ち入らせないことが重要でしょう。(※重要事項補足:メントールの代謝にはグルクロン酸抱合が関与していますが、猫にはグルクロン酸抱合能がありません

臨床徴候(症状)

私が調べた限りでは犬や猫の中毒の報告は見つけられませんでした。人でも中毒はまれですが、インドのペパーミント工場でのタンクの清掃作業中に吸引し、意識不明の状態で発見され致命的な転帰をとった報告がされています。 このような状況での過剰摂取では昏睡、痙攣、興奮、眩暈、などが見られるとされており、本報告では低酸素による脳障害、血尿、急性腎不全が認められています。 犬や猫でも中毒が発生した場合は同様の臨床徴候を呈する可能性があります。 生まれて日が浅い犬(7~14日齢)に麻酔をかけ換気量を調べた実験では、l-メントールは冷気刺激と同様に換気を減少させる結果が得られ、鼻の麻酔でl-メントールによる換気抑制効果は減少し、鼻の冷感受容体(本記事著者注:TPRM8とTRPA1 )が新生犬の麻酔時の換気抑制に関与していると考えられています。

原因物質

l-メントール。l-メントールは温度感受性TRPチャネルの一つTRPM8を刺激することで冷感作用があります。鎮痛作用や経皮吸収促進作用のほか消化管運動抑制作用もあり注目されている化合物です。TPRM8とTRPA1 はイヌにも発現していることが確認されており、イヌでもメントールによる冷感作用はあると考えられています。

中毒量

中毒量は不明です。 犬にL-メントール6.4mg/kgを単回経口投与した時、2時間で最高血中濃度に達します。 投与後48時間までに排泄はほぼ終了し、尿への排泄率は80%、糞中への排泄率は7.8%です。イヌでのl-メントールの主要排泄経路は尿中排泄であることが確認されています。イヌ、ヒトのいずれでもメントールは肝細胞のグルクロン酸抱合を受けて代謝されます。 代謝に関与する主なCYP分子種はCYP3A4であり、CYP2B6の関与も認められています。

中毒を起こしやすい犬種・動物種

特にありませんが、精油工場などには立ち入らせないようにします。

催吐の必要性

不明です。

治療

人における中毒例では、痙攣がある場合はミダゾラムやレベチラセタム、胃洗浄、静脈輸液などの支持療法が実施されています、また活性炭の経口投与も報告されています。

注意すべきこと

犬では安全性が高い物質であり、中毒を起こすことは稀と考えられます。ミントの匂いは犬や猫もあまり好まないと思いますが、メントールが入っているミントを大量に食べるのは避けた方が良いでしょう。 メントールの代謝にはグルクロン酸抱合が関与していますが、猫にはグルクロン酸抱合能がありません。そのため中毒を起こす可能性があります。なので人や犬では安全性の高い物質として知られますが、猫にはメントールは触れさせないようにより注意する必要があるかと存じます。

参考

  • ECCLES, R. Menthol and related cooling compounds. Journal of Pharmacy and Pharmacology, 1994, 46.8: 618-630.
  • KUMAR, Akshay, et al. A fatal case of menthol poisoning. International journal of applied and basic medical research, 2016, 6.2: 137.
  • 山口卓哉, et al. イヌ TRPM8 と TRPA1 のメントールに対する反応性の違い. In: 日本薬理学会年会要旨集 第 96 回日本薬理学会年会. 公益社団法人 日本薬理学会, 2022. p. 1-BP-014.
  • 星野心広, et al. CYP2C および CYP3A の誘導を介したメントールとワルファリン, トリアゾラムあるいはフェニトインとの相互作用の解析. 2015.
  • 小野昌弘, メントール結晶調査, 大阪市立科学館研究報告 25, 23 - 26 (2015)
  • 飯島陽子. 香辛料・ハーブとその香り~ 香気生成メカニズムとその蓄積. におい・かおり環境学会誌, 2014, 45.2: 132-142.