- 2023.08.29
- 中毒
31:イカリジン【犬】【中毒】
概要
ディートと並んで日本で汎用される害虫忌避成分であるイカリジンについてご紹介します。イカリジンは比較的安全性が高く、イヌの皮膚から吸収される範囲での無影響量(NOAEL)は200mg/kg/dayです。15%のイカリジン200ml製剤には30mgのイカリジンが含まれています。うさぎで目の刺激性が認められているため、目に入った場合は一時的な結膜炎などが懸念されます。
臨床徴候(症状)
涙、結膜炎(いずれも一過性)
原因物質
イカリジン(別名ピカリジン) イカリジンは海外ではピカリジンの名前でよく用いられています。対象虫としては蚊、マダニ、イエダニ、ブユ、アブ、サシバエ、ノミなど。ディートと同じ濃度ではより長時間忌避効果を発揮します。ディートと比較するとイカリジンの方が分子量が大きく蒸気圧も低いため、蒸発しにくい物質です。効果持続時間にはイカリジン15%製剤は6~8時間程度です。
中毒量
不明です。イヌの経皮全身性慢性毒性NOAELは実験より200mg/kg/日と設定されています。 日本で販売されているイカリジン含有害虫忌避剤は10~15%の濃度で販売されているものが多いです。実際に販売されている携帯に便利な15%製剤60mlのボトルでは9mgのイカリジンが含まれています。家族全員でたくさん使うのに向いている200mlのボトル製品では30mgのイカリジンが含まれています。イカリジンの200mlボトルを全て1kgの犬にかけたとしても、無影響量の範囲内となります。
中毒を起こしやすい犬種・動物種
好奇心旺盛な個体では注意しましょう。目への刺激があるのでスプレーする際は犬の顔から遠いところで実施します。人が虫除けスプレーを散布した皮膚などを舐めさせないようにしましょう。
催吐の必要性
不明です。
治療
対症療法が中心となると思われます。イカリジンは基本的に安全性が高い物質でありgoogle scholarで”picaridin toxic dog”と検索してもヒットした症例報告はありませんでした。
注意すべきこと
2023年7月現在、動物用医薬品等データベースに登録されたイカリジンを使用したペット用製品はなく、ペットがイカリジンに接触するとすると人用製品である可能性があります。イカリジンはアルコールに溶けやすく水に溶けにくい性質を持つものの、アルコールフリーの製品も多くより安全性が高くなっています。目に入ると結膜炎や、大量に摂取して下痢や嘔吐を起こす可能性はあります。ボトルをペットの口の届かない場所に保管した上で人が使用していけば良いかと思います。
参考
- SANGHA, GK Ghona. Toxicology and safety evaluation of the new insect repellent Picaridin (Saltidin). In: Hayes' Handbook of Pesticide Toxicology. Academic Press, 2010. p. 2219-2230.
- Charlton NP, Murphy LT, Parker Cote JL, Vakkalanka JP. The toxicity of picaridin containing insect repellent reported to the National Poison Data System. Clin Toxicol (Phila). 2016 Sep;54(8):655-8. doi: 10.1080/15563650.2016.1186806. Epub 2016 May 23. PMID: 27213820.
- 殺虫剤研究班のしおり 第88号(2017年10月),https://server45.joeswebhosting.net/~js4308/insecticide/proc/2017_88.pdf (2023/07/05参照)
- 天使のスキンベープミストプレミアム https://fumakilla.jp/insecticide/1713/ (2023/07/16参照)