- 2023.09.04
- 中毒
33:どんぐり【犬】【猫】【その他】【中毒】
概要
ナラ(オーク)の木の葉とどんぐりに含まれるタンニンとその代謝物であるピロガロールや没食子酸は犬に消化器障害と肝臓や腎臓に障害を起こすことがあります。小型犬が多い日本においては中毒だけでなく、物理的な閉塞にも注意が必要です。
臨床徴候(症状)
消化器障害のほか、肝障害や腎障害を起こして死にいたることもあります。どんぐりのタンニンによる中毒は稀であるものの、一時危篤状態となったラブラドールレトリーバーの症例が報告されています。 初期には胃など消化管粘膜の上皮の障害、消化機能の低下から消化器系の症状が出ます。タンニンの代謝産物は消化管の酵素と複合体や化合物を形成して窒素が失われ、食べ物を消化するのに必要な酵素の機能が失われます。 どんぐりによる急性腎障害はタンニンの加水分解代謝物(没食子酸)により腎近位尿細管壊死が生じることで発症すると考えられます。 今までは肝障害や腎障害は犬ではまれとされていましたが、2021年に肝障害と腎障害を起こした犬の報告があることから今後はペットでも注意が必要でしょう。 没食子酸はさらにピロガロールに代謝され、酸化障害や変異原性を通じて肝障害を起こすと考えられます。ピロガロールはCYP450、グルタチオン還元酵素(glutathione reductaseS-transferase)、S-トランスフェラーゼ(S-transferase)、およびペルオキシダーゼ(peroxidase)の発現を変化させます。これら抗酸化酵素の減少は酸化障害を促進します。
原因物質
ブナ科コナラ属(オーク)のどんぐりと葉に含まれるタンニンと、その代謝物であるピロガロール、没食子酸
中毒量
不明です。どんぐりの誤飲によるタンニン中毒を起こした23.4kgのラブラドールレトリバーの報告では10~15個のどんぐりを嘔吐したと記載されています。
中毒を起こしやすい犬種・動物種
犬のほか、ウマやウシでもどんぐりの摂取による中毒が報告されています。 草食動物の中にはタンニン結合タンパク質(proline-rich protein等)を唾液に中に分泌したり、腸内細菌によるタンニンの分解能力や解毒酵素など防御メカニズムを持つものもいます。こうした防御機構があるにもかかわらず、タンニン中毒を発症した牛では85%が死亡するという報告もあります。そのため草食の動物でも中毒を起こす可能性があります。犬や猫には草食動物が持つようなタンニン結合タンパク質などの防御機構はありません。
催吐の必要性
中毒物質であるタンニンを除去するため早期の催吐処置は有効と思われます。
治療
特効薬はありません。対症療法が中心となります。 静脈輸液(IVF)のほか消化器症状に対しては経腸栄養、肝障害に対してはSAMeの投与などが提案されています。
注意すべきこと
症例報告は少ないため今後症例の蓄積が重要です。重篤な中毒症状を起こした犬ではどんぐりを誤飲して三日後に沈うつ、嘔吐などを発症しているため誤飲した直後は元気でも数日間は注意深く観察が必要です。また日本には腸管も細い小型犬が多いので、物理的な閉塞にも注意が必要です。
参考
- CAMACHO, Fernanda; STEWART, Sarah; TINSON, Erica. Successful management of suspected acorn (Quercus petraea) toxicity in a dog. The Canadian Veterinary Journal, 2021, 62.6: 581.