- 2023.06.14
- 中毒
11:電池【犬】【猫】【その他】【中毒】
概要
電池は誤飲するとペットの消化管に強い炎症や潰瘍を起こし穴があくこともあります。2015年に公益財団法人日本中毒情報センターが10年間に犬の中毒に関する動物病院からの相談事例1,623件を分析したところ,半数近くを家庭用品が占め,全ての家庭用品の中で電池は3%ほど含まれていたと報告されています。 電池は犬や猫などペットが人と生活する空間に電化製品の動力源として広く使われており,家庭内で電池を交換する機会も多くペットが接触する可能性が高いものです。特にコイン型リチウム電池は危険で,3Vの電池だと15〜30分以内にわんちゃんの消化管粘膜に壊死を起こし始めます。 催吐は禁忌ですが,状況によっては実施する可能性もあるので獣医師の指示に従い治療を行います。
臨床徴候(症状)
噛み砕いた場合は口腔内に炎症や潰瘍がみられます。消化管に詰まった際はその部位に穴があく可能性があります。こうした組織障害から嘔吐や,唾液がダラダラと口から垂れるといった症状がみられます。 乾電池を噛み砕いて飲み込んだ場合には口の中に黒い粉がついていることもあります。 また実際にコイン型リチウム電池を犬の食道に留置した報告では15分で壊死が組織の深くまで(筋層)及び,60分で接触していた部分が真っ黒に炭化していた変化がみられました。
原因物質
家庭でよく使われるアルカリ乾電池は、水酸化カリウム(potassium hydroxide )や水酸化ナトリウム(sodium hydroxide )などを含んでいます。これらが組織に壊死を起こし、深い潰瘍を形成します。 また電池が通過する部分に電流が流れることで壊死が起きます。 電池によっては水銀、亜鉛、コバルト、鉛、ニッケル、カドミウムなどの重金属を含んでおり,電池が2~3日以上体外に出ず消化管に残っていると、稀ではありますが重金属中毒を起こす可能性があります。
中毒量
リチウムボタン電池は最も危険で,3Vの電池1個で15~30分以内に消化管や食道が激しく壊死する可能性があると報告されています。ボタン型リチウム電池には水酸化カリウムや水酸化ナトリウムは含まれていませんが,接触した部分に電気が流れ消化管液や電解質液が電気分解され,生成されたアルカリが組織を壊死させているという仮説がなされています。
中毒を起こしやすい犬種・動物種
好奇心旺盛な子犬では注意を要します。
催吐の必要性
食道や中咽頭の腐食性の障害を起こすまたは悪化させる可能性があるため基本的には推奨されません。しかし状況によっては行う可能性もあるため,受診した先の獣医師の指示に従います。
診断
身体検査で口腔内の潰瘍や火傷をチェックします。認められなくても食道やその他の消化管の組織がダメージを受けている可能性があります。電池は金属であるためレントゲン写真に写ります。レントゲンを撮影して飲み込んだかどうかと位置を確認します。治療
便中に排泄されるのを待つか,電池が破損したりして組織に壊死を起こしている可能性がある場合は内視鏡や開腹による外科的な電池の摘出,潰瘍に対する治療(H2ブロッカーやスクラルファートなど)を行います。 実験レベルでは3Vのコイン型リチウム電池を黒鉛生食懸濁液を投与してショートさせることで起電力を1.5Vまで下げさせ,除去までの間組織を守る方法も考案されていますが,残念ながら獣医領域では実装されるまでに至っていません。
注意すべきこと
電池が使用された犬用おもちゃを使う場合は人の目がある場所で用い、飲み込まないように注意します。また、電池が入った家電を使用する際はしっかり蓋のネジを止めるなどの予防が重要です。
参考
- LEE, Justine A. TOP 15 POISONS AFFECTING DOGS AND CATS TOXICOLOGY.
- 武田 光志, 荒井 裕一朗, 長井 友子, 安原 一, 山下 衛, コイン型リチウム電池によるイヌの食道壊死に対する黒鉛生食懸濁液による緊急処置効果, 昭和医学会雑誌, 2006, 66 巻, 1 号, p. 12-21, 公開日 2010/09/09, Online ISSN 2185-0976, Print ISSN 0037-4342, https://doi.org/10.14930/jsma1939.66.12, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsma1939/66/1/66_1_12/_article/-char/ja
- SAMAD, Lubna; ALI, Mohsin; RAMZI, Hasan. Button battery ingestion: hazards of esophageal impaction. Journal of pediatric surgery, 1999, 34.10: 1527-1531.
- 日児誌2009年8月号(113:1293-1294)https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/injuryalert/0013.pdf 2023/01/26参照
- イヌの中毒事故を防ぐために 日本中毒情報センター 2023/01/26参照