• 2023.06.13
  • 中毒

10:タマネギ・ニンニク・ネギ【犬】【猫】【その他】【中毒】

犬猫はタマネギの摂取により赤血球が壊れてしまう溶血性貧血に起因した様々な症状がみられます。

概要

タマネギ等のネギ類は犬猫に溶血性貧血を起こすことがあります。日本犬では遺伝的に高カリウム/高グルタチオン赤血球を持つ個体がおり,中毒物質による赤血球の酸化が起こりやすいです。加熱しても発症するので,ネギ類を用いた料理の誤食に注意です。犬では1kgあたり15~30gが中毒量と報告されていますまたペットへの投薬補助で人間のベビーフードを使うのも避けたほうがよいと思われます。

臨床徴候(症状)

貧血に伴う血色素尿(赤い尿)や食欲不振,元気消失です。 加熱しても毒性は失われないため,調理済みのネギが入った料理を食べて発症する可能性があります。嘔吐は投与後数時間で出ることもありますが,貧血による症状は2〜3日で明らかになってくるケースも多くみられます。血液を顕微鏡で見ると,赤血球に含まれるヘモグロビンが酸化障害されてできるハインツ小体という粒状の物質が赤血球の膜に観察できます。また,偏心赤血球もみられるようになります。

原因物質

加熱したタマネギから精製された貧血の原因物質と考えられているのは ①sodium trans-l-propenylthiosulfate ②sodium cis-l-propenylthiosulfate , ③sodium n- propylthiosulfate という3つのチオ硫酸塩です。これらの物質は赤血球を酸化させることで貧血を起こします。

中毒量

タマネギの中毒量は猫の方が敏感で1kgあたり5gの摂取で,犬では1kgあたり15〜30gの摂取であると報告されています。

中毒を起こしやすい犬種・動物種

秋田犬や柴犬など日本犬に多い遺伝性高カリウム赤血球犬(HK)かつ高グルタチオン赤血球犬(HG)ではネギ類による溶血貧血が特に発症しやすくなっています。いずれも赤血球中のカリウムとグルタチオン濃度が高くなっており,チオ硫酸化合物による酸化反応が起こりやすくなっています。 HK/HG犬のタマネギ中毒では赤血球が壊れると中のカリウムが溶出して高カリウム血症になり不整脈になるのでは?と思われるかもしれませんが,実際にはHK/HG犬のタマネギ中毒による貧血でも高カリウム血症はみられなかったという報告が日本からも出ています。

催吐の必要性

有効です。誤飲してから吐かせる処置まで早いほど成功率が高くなります。時間が経つとネギが腸へ流れてしまい,吐かせることができなくなってしまいます。

治療

チオ硫酸塩に対する解毒剤は存在しないため,誤食して時間が経っていなければ吐かせたり,輸液など対症療法を行います。

注意すべきこと

猫の方がタマネギ中毒の感受性が強いですが,筆者が経験した中では圧倒的にわんちゃんが多かったです。猫ちゃんは犬より肉食傾向が強い動物なのでネギ類には惹かれないのかもしれません。しかし海外の報告ではペットへの投薬に人間の赤ちゃん用のベビーフードを使うことがあるようで,猫や犬の投薬補助にベビーフードを用いる際は原料をよく確認するようにと注意喚起しています。 日本では犬猫用のペースト状おやつがポピュラーになっており,そうしたものを投薬に利用する方が多いと思いますが人間用のものはペットには与えない方がよいと考えられます。 また筆者が遭遇したタマネギ中毒でも日本犬の血統の雑種わんちゃんが多かったのでそうした犬種を飼われている方はより注意が必要かもしれません。

参考

  • SALGADO, B. S.; MONTEIRO, L. N.; ROCHA, Noeme Sousa. Allium species poisoning in dogs and cats. Journal of Venomous Animals and Toxins including Tropical Diseases, 2011, 17: 4-11.
  • 菱山信也, et al. 高カリウム高グルタチオン赤血球犬のタマネギ中毒時の酸-塩基平衡障害. 日本獣医師会雑誌, 2000, 53.3: 149-153. 
  • YAMATO, Osamu, et al. Novel Heinz body hemolysis factors in onion (Allium cepa). Bioscience, biotechnology, and biochemistry, 1994, 58.1: 221-222.