• 2023.07.20
  • 中毒

19:桜【犬】【猫】【その他】【中毒】

桜はペットに実と葉に中毒を起こす物質が含まれているので注意が必要です。

概要

桜はペットに対して有害な印象は薄いですが、SNSで飼い主様から仔犬の頃に桜の葉を食べて入院したわんちゃんの例をご報告いただいたので,調べられる限りまとめてみました。 桜はペットに実と葉に中毒を起こす物質が含まれているので注意が必要です。

臨床徴候(症状)

アミグダリン自体は無毒です。動物の体内に入るとアミグダラーゼやamygdalase プルナーゼ prunaseなどのグルコシダーゼにより加水分解され,最終的にシアン化水素酸hydrocyanic acid,HCNに変換されます。シアン化水素酸は別名青酸と呼ばれます。 シアン化水素酸HCNは犬にも猫にも人にも多くの哺乳類にとって毒性があり,チトクロームオキシダーゼという酵素の働きを阻害することで細胞の酸素利用が抑えられます。症状としては意識消失や呼吸停止などです。 コアラでは腸内細菌によりユーカリに含まれる青酸化合物を代謝していますが,バラ科の植物では逆に腸内細菌の代謝により毒性が生まれてしまうとは興味深いですね。 クマリンは肝障害に起因する症状を発現する可能性があります。

原因物質

アミグダリンAmygdalin(種子):バラ科の植物の種子にはアミグダリンAmygdalinという物質が含まれています。アプリコット、桃、桜、プラムなどです。桜と一口に言っても実際には様々な属,種類があるため日本でよくみられるソメイヨシノに具体的にどの程度含まれるかは不明です。 ソメイヨシノ自体は自家不和合性の性質があり、自分と同じ遺伝形質の花粉では受粉せず実をなさないため、接木で同じクローンのソメイヨシノが植えられている場合はあまり実がならないようです。 クマリンCoumarin(葉):日本でよくみられるソメイヨシノの葉にどの程度クマリンが含まれるかは不明ですが、オオシマザクラ( Cerasus speciosa)の葉に含まれるクマリンはオオシマザクラの葉を一緒に入れた桑の葉に対するカイコ幼虫の摂食行動を抑制したことから,葉が食べられないようにするための物質であると推察されています。 犬では肝障害を起こすことが確認されています。

中毒量

不明です。クマリン自体は犬の体重1kgあたり100mgの投与で肝障害を起こした実験が報告されています。

中毒を起こしやすい犬種・動物種

好奇心旺盛な仔犬は拾い食いをする可能性があるので注意が必要です。

催吐の必要性

誤食してから時間が経っていない場合は有効と考えられます。

治療

特効薬はありません。肝障害などへの対症療法が中心となります

注意すべきこと

ソメイヨシノは接木で増えるため同じ遺伝形質を持つクローンであり,自分と同じ遺伝形質の花粉は受粉しない性質を持つことから実をなすことは少なく、実に含まれるアミグダリンの誤食の可能性は低いかと思われます。しかし桜餅の葉にも使われるオオシマザクラにもクマリンが含まれることが確認されているため、ソメイヨシノ他サクラの葉は食べさせない方がよいでしょう。

参考

  • 急性曝露ガイドライン濃度 (AEGL)  http://www.nihs.go.jp/hse/chem-info/aegl/agj/ag_Hydrogencyanide.pdf 2023/03/31参照
  • 日本植物生理学会 https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=577 2023/03/31参照
  • SONG, Zuoqing; XU, Xiaohong. Advanced research on anti-tumor effects of amygdalin. Journal of cancer research and therapeutics, 2014, 10.Suppl 1: C3-C7.
  • HAZLETON, L. W., et al. Toxicity of coumarin. Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics, 1956, 118.3: 348-358.
  • SHARIFI-RAD, Javad, et al. Natural coumarins: exploring the pharmacological complexity and underlying molecular mechanisms. Oxidative Medicine and Cellular Longevity, 2021.
  • SHII, Fumika, et al. Ultrasensitive detection by maxillary palp neurons allows non-host recognition without consumption of harmful allelochemicals. Journal of Insect Physiology, 2021, 132: 104263.